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第98首 中山義治 (埼玉県)

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  君慕う藤のこころね知るごとく静かにあける四万十の朝 


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■初めて訪れた四万十市で、一条侯を慕う藤に寄せて…

 2月末に、所用で黒潮町に出かけ、その足で友人の住む中村に一泊しました。「友人」とは、四万十川通信の編集者&四万十川百人一首の編纂者「山藤花」さんであり、私の大学の同級生です。

 夕方になって、宿の近くの「ちか」という居酒屋で一杯やりました。酒は地元の「藤娘」、肴は地元名産の鰹のたたきや鯖寿司、それに坂本龍馬や故郷鹿児島の歌人吉井勇、一条侯のことなど、彼にしか聞けない四万十川の物語。

 そろそろ席も、お開きという時間になって「3月末には『四万十川百人一首』を完成させたい。ひとつ足りないが・・・如何?」と、詠み手の一人として、四万十川百人一首のお誘い。

 恥ずかしながら歌を詠むなど、この年齢になるまで経験のないこと。その手の素養も全くありませんので、慌てて、それだけは・・・と、お断りして店をあとにしました。

 翌朝早く「一条神社」まで散歩しました。ここは応仁の乱後、京都から中村に居を移し、この地域の文化・経済の礎を築いた一条一族を祀る社です。本殿に登る石段の脇には藤棚がありました。そこには、かつて一条侯が可愛がっていた藤があったということですが、目の前にあるのはその後継樹のようでした。

 朝の光に浮かぶ藤を眺めながら、前夜の話を思い出していました。「一条一族は中村から他所に離れざるを得なくなり、遠くへ移り住むことになった。すると一条候を慕っていた藤は悲しみのあまり花を咲かせなくなった。しかし後世になってここに社を建て一族の霊を手厚く祀ったところ、ふたたび花を咲かせ始めた・・・」というのです。

 いつの間にか、私は五、七、五…、と慣れない指を折っていました。あれほど固辞したのに、と昨夜のことを考えると、何だか自分でも摩訶不思議な気分でした。

 ということで「山藤花」さんと「藤娘」を飲み、翌朝、「一条候の藤」を見て、とうとう「四万十川百人一首」を書き記すことになりました。これは、私にとって、大切な思い出としていつまでも残る記念の歌となるでしょう。機会を与えてくれた友に感謝!です。

 彼は「四万十通信」や「寅次郎の『四万十川の大休日』」など8本ものブログを通して、地域の歴史や文化に関する話題、環境や森林を守る活動などの情報発信で大活躍中です。

 しかし、いよいよこの春で退職。「四万十川百人一首」の首尾良きことを祈りつつ、心から「長い間、ご苦労様でした。」とねぎらいの言葉をかけさせていただきます。

 今回の旅は、まったくの駆け足でした。いつの日か、藤の花の季節にでも、ゆっくりと四万十川を訪れて、四万十の豊かな自然や歴史、文化を、心から堪能してみたいと思います。

【写真】岡村龍昇氏

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[プロフィール]

 鹿児島生まれ。
 緑化関係の公益法人に勤務。
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【写真】一条神社の藤棚(撮影:中山義治氏)
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