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第85首 逸見悦子 (千葉県)

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  四万十川の瀬音に混じり学童の声の聞こゆる土手の夕映え


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■四万十川の支流、仁井田川

 私の育ったのは窪川町(現在は四万十町)平串というところで、正確に言えば四万十川の支流、仁井田川が身近な川でした。

 父、母、祖母、4人の姉、家族みんなが肩を寄せ合いながら暮らした日々。仁井田川には赤い鉄橋があり、土讃線の鉄道が開通した時、家族は健在だっ た。隣のうちにも、その隣にも子供が沢山いて、もらい風呂など当たり前の時代だった。

 年長の男の子にくっついて田んぼや山を駆けずり回っていたこと。隣の兄ちゃんに鮒を素手で掴むコツを教わったり、蜆採りも泳ぎも一緒でした。冷えた身体を岩の窪みに当てて一休みしたこと。そんな仲間や家族はもう何処を探してもいません。

 古くて狭い我が家でしたが、もう帰る場所はない。窪川の町はずれに住む義兄の家が実家となってもう15年が過ぎました。

 四万十川本流の土手を歩いた夏のことでした。学童の声のする夕暮、あの仁井田の川へもう一度帰りたい、あの頃へ戻りたい、そんな一瞬の気持ちがいとおしくて詠んだ歌です。(逸見)

【写真】岡村龍昇氏

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[代表歌鑑賞]      「古いノート」より

  笹薮も釣りする人も靄のなか四万十の夏白く明けゆく

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 古いノートから、四万十川の歌を、何首か抜き出してみました。(逸見)

  草覆う川辺につかむ鮒の腹きらりと夏の日を反らしたり
  おかっぱの髪ゆるるさま腹這いて見ていし川の橋崩おり
  石菖藻うねる四万十の清流に足を浸して息づくわれは
  沈下橋渡れば思う野辺送りの母の遺骨のコツりと鳴りしを
  菜の花の一面に咲く河川敷ふる里の川の流れ細まる
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