第71首 大滝貞一 (新潟県)

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風うけて光りおのづから銀綸子(ぎんりんず)の波しぶかせる早瀬ひとところ


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■銀綸子

 川幅いっぱいに渡る涼風を受けて、早瀬になっているひとところが、おのずから銀綸子のような波をしぶかせて光っているのが見える。

 綸子は精錬された生糸の紋織り布地。浅瀬のせせらぎを彩色感覚で捉えた、美しい四万十川の風景である。

  四万十川は夕陽に映えて川みづの綾縞なさば火振漁とぞ恋ふ
  一瞬の宙花となりし投網を呑みて川面は錫箔にもどる


 この、四万十川の秀歌は、歌集「頚城野」の中の「三角笹綜」章に、「錫箔の川面」と小題された十七首中の巻頭歌である。

 「第一回四万十川短歌大会講師として、平成四年十月、高知県中村市に赴く。日本一の清流を短歌に託して後世に残さんとする企画なり。」と、詞書がつけられている。(「四万十川秀歌百選」(大滝貞一編著)より)

【写真】岡村龍昇氏

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[プロフィール]
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 昭和10年9月新潟県生まれ。

 東洋大学文学部卒業。

 NHK教育放送関係の協会に入社、その後「博報堂」に移りトップ情報企業の幹部職業人として活躍。

 平成7年に次の歌を詠んで定年退職。
   ながつき尽のけふを節目にをはりたる長き勤めに自負して別る

 歌人としては、「果実」「古今」編集委員を経て「雲珠」を創刊主宰。現代歌人協会理事。日本文芸家協会会員。日本ペンクラブ会員。明海大学講師。歌集に「同時の時間」「花火咲き」「彩月」など。

 「四万十川秀歌百選」編著

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■四万十川秀歌百選(題字・藤田紅子氏)  高知新聞社/1997.9.29

a0050405_63911.jpg 四万十川秀歌百選の編著者、大滝貞一氏は平成4年から始った「四万十川短歌全国大会」の選者を第1回から、第10回まで連続して勤めている。

 今回の企画シリーズ「四万十川百人一首」のベースとなっている、「四万十川秀歌百選」を平成9年に発刊し、四万十川の短歌を世に知らしめた。

 毎年、秋に四万十市で開催される「四万十川短歌全国大会」には、選歌、講演、選評のためしばしば訪れ、悠久の四万十川を自身の眼で確かめ、また、心で感じ取り、彩色感覚で捉えた「四万十川の秀歌」を数多く詠んでいる。

 平成12年、「四万十川短歌全国大会」の関係者により、中村市川登の四万十川の川岸に歌碑が建立されている。

  四万十川は夕陽に映えて川みづの綾縞なさば火振漁とぞ恋ふ
  一瞬の宙花となりし投網を呑みて川面は錫箔にもどる

四万十川短歌全国大会
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      【写真】大滝貞一氏:第9回四万十川短歌全国大会での講演(2000.9.30)

◆四万十川百人一首(題字・藤田紅子氏)  高知新聞社/2007.7.25
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[ひとくちメモ]

■四万十川歌碑  〔四万十川畔(四万十市川登)〕

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   みずおくにすばやくはしる魚の背を透かせて四万十は澄みわたるなり

 平成12年9月30日に中村市(現四万十市)川登の四万十川畔に大滝貞一氏の歌碑が建立され、地元の雲珠の関係者をはじめ、全国から28名もの雲珠同人が集い、記念の除幕式が行なわれました。

 なお、この歌碑の歌の選定には裏話があります。はじめは大滝氏自身が四万十川秀歌百選とした「風うけて光りおのづから・・・」の歌になるはずでしたが、途中で変更され今の歌となりました。四万十川という言葉がないためといわれていますが、この四万十川の二首、どちらにしても四万十川を詠んだ歌としては素晴らしい歌です。こうした歌が歌碑として四万十川畔に建立できたのは、中村市の文化面でも大変プラスになったことと思われます。(小谷貞広)

◆四万十川歌碑除幕式

・石川正子氏

  張られたる幕は引かれて待ちゐたる師の歌碑美しく現われづる
  
  なつかしき師の筆跡のみづみづと石に刻まれ雨はげしくて

  自称せる「晴男」を返上なされませ雨に惨める碑もまたよろし

・中村あやめ氏

  雨けぶる佐田の沈下橋渡り行き師の歌碑目指す川添ひの道

  杉木立のしづくに濡るる師が歌碑の青石に白き文字は浮き立つ

・中村茂美氏

  四万十に師の歌碑建つと友どちの乗りたる列車視界に消えつ

小谷貞広氏
中山千恵子氏
安部巳佐子氏
飯塚智恵子氏
有井佐代子氏
加納 薫氏
白石多津子氏

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 除幕式の後、2艘の屋形船に遊覧しての、雲珠同人による「四万十川の吟行詠」が行なわれ、数多くの「四万十川の秀歌」が生まれています。

◆四万十川の吟行詠

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・斎藤 洋子氏の【四万十川百人一首
・白石多津子氏の【四万十川百人一首
・中山千恵子氏の【四万十川百人一首
・安部巳佐子氏の【四万十川百人一首
・飯塚智恵子氏の【四万十川百人一首

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[代表歌鑑賞]        「現代短歌大事典」より

 ひとよりも激しき呼吸くりかへし満山の花は生命ととのへぬ(『枯野舟』)

■花の呼吸

 雪国の故郷への思いは、作者の原点である。厳しいやまぐにの花の呼吸が聞こえてくる。(高瀬一誌)

◆高瀬一誌氏の【四万十川百人一首

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[四万十川秀歌百選/大滝貞一]
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  風うけて光りおのづから銀綸子(ぎんりんず)の波しぶかせる早瀬ひとところ


 歌は理屈ではないと言われる。その通りで一読すればすうっと頭に入ってくる歌、それに詩である以上リズムも大切だ。また読んでいて意味不明というか難解な言葉のあるのも困る。この「風うけて」の歌、二句目三句目とも字余りになっているが、一向に気にならないし、またリズムにも狂いがない。もしも結句「早瀬ひとところ」を「早瀬のところ」として七音にすると調子はよくなるかもしれないが、軽く流れて座りが悪くなる。歌で一番注意しなければならないのは結句である。

 叙景歌というのは一見やさしく見えて案外むずかしいものだ。ただ見たままを歌にすれば、ああそうですかといわれる平凡なただごと歌になってしまう。この歌の川瀬の光るさまを、「光りおのづから」と「波しぶかせる」と言い、またその光るさまを銀綸子(高級絹織物で綸子縮緬などがあり、高価なものである)に例えたのも、成功の一因ではなかろうか。まあなにはともあれ四万十川の瀬切りのさまを、こうまで簡潔にしかも美しく歌に詠んだのは、何といっても歌人の実力の業。何度読んでも四万十川の川瀬のせせらぎを、目の前に見ているような気になる。(小谷貞広:「大滝貞一百歌」より)

【写真】奈路広氏(「四万十川秀歌百選」より)
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