第47首 橋詰寿男 (高知市)

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        向山渡す沈下の橋架けぬ橋脚据えし鮎群れる岩


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■鮎を足で踏みつけて・・・(向山沈下橋)

 昭和38年4月、私は高知県幡多事務所林業課林道係長として赴任した。着任早々、大正町から、向山町有林伐採のため、同町上岡の国道から四万十川を渡り、対岸の向山まで、林道を開設したい旨の陳情があり、現地踏査の結果、2号林道として採択が可能と判断したが、林道の主体は沈下橋(潜水橋)であった。

 同年8月9日、9号台風が来襲。四万十川源流点東津野村船戸に日雨量890ミリという50年ぶりの記録的大洪水に見舞われた。

a0050405_15284475.jpg 私は緊急に被害調査を行いたい旨、上司に進言。すぐ調査班を編成、私は、激甚地域の調査を担当した。調査は、中村市から西土佐村、十和村を経て、大正町まで行ったが、沈下橋は大半が流失しており、唯一、西土佐村の口屋内の沈下橋(林道として昭和28年に完成)が健在であった。

 このことから、向山沈下橋は、口屋内の設計に準じようと決め、8月末県庁の書庫で、汗だくになって設計書を探した結果、丸山氏の設計書が幸運にも発見できた。

 昭和38年は鮎も近来にない大豊漁で、現地測量の際、決めた橋脚位置の岩盤上で鮎を足で踏みつけた程であった。林野庁から、2号林道向山線として採択され、昭和39年に着工し完成した。

 向山沈下橋は、口屋内と比べ、橋長は短いが、そのため両岸との調和が程よく、景観が素晴らしいとして、観光写真やポスターなどに数多く紹介されている。

【写真】中川真理子氏

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[プロフィール]

a0051128_18595293.jpg1928年 高知県土佐山田町生まれ。
1948年 愛媛農林専門学校(現愛媛大学農学部)卒業。
1948年 高知県庁入庁。林業職員に。林業試験場長。
1985年 高知県庁退職。
2002年 全国山村振興連盟会長賞(山村力コンクール)受賞。
現 在 NPO土佐の森・救援隊会長。

◆四万十川源流域を詠む

 遠近に唸るチェンーソー響く笛笑い始めたり早春の山
                  <森林ボランティア活動>
 蜩の声涼やかに夕去りて源流里に点る灯火(あかりび)
                  <四万十源流センター>
 静けさに八色の鳥の声澄みて原生林の霧ぞ晴れゆく
                  <四万十町大正の原生林>
 長走り火振りの漁の楽しきも網にかかりしスミヒキの泣く
                  <四万十市西土佐長走>

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[ひとくちメモ]

■土佐の名建築

a0050405_1935293.jpg 高知新聞社刊行の「土佐の名建築」のひとつに掲載され、新聞紙上「土佐近代文化遺産」(沈下橋・四万十川流域)では、

 『向山橋は延長60mの桁が路面部分を直線にして、その裏の下部では、一つ一つ弧を描く。背骨のように見えて、スペインの建築家アントニオ・ガウディの建築物を思わせる・・・』

 ここに至っては、いささか尻こそばい思いである。

 平成17年5月28日、高知新聞「四国名作紀行46」では、平成2年夏、映画「鉄拳」のロケが行われ、主演の菅原文太さんと供に向山沈下橋が登場している。

 ともあれ、四万十川流域に多く残る名物の沈下橋の中でも、特に肉感的な造形が美しいと評判され、四季を通じ紙上で向山沈下橋が見られることは、設計者として嬉しい限りである。(橋詰)

◆向山橋(上岡沈下橋)
 
 向山橋は、四万十川の両岸に拓かれた上岡集落の本村と対岸の向山とを結ぶ沈下橋である。地元では上岡沈下橋とも呼ばれている。

 四万十川に架かる沈下橋は、それぞれが違った構造で架けられている。この付近は急流で、水の抵抗を考慮し曲線を取り入れた向山橋の形状は力強く、美しい。その独特の構造から、流域に架かる沈下橋の中でも個性的な橋として知られる。

 国道381号線から望む向山橋は、四万十川に数多く架けられた沈下橋の中でも特に優れた意匠により川と橋が良く調和した景観で、沈下橋の建設にあたっての住民の英知と工夫を理解するうえで、重要な存在である。(HP「四万十町」より)

・仕様 橋長60.0m・幅員3.7m
・橋脚 本数:3本、構造:鉄筋コンクリート、形状:直方体
・床版 厚さ:50~120cm、天端高:10cm、形状:直方体

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[文化遺産]

■沈下橋
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          【水彩画】半家の沈下橋(徳広淳也氏)

 四万十川の沈下橋とは、増水時に川に沈んでしまうように設計された欄干のない橋のことです。緑の山々に青い四万十、そして沈下橋という風景は、もっとも四万十川らしい風景でしょう。

 河口からいちばん近い沈下橋は、佐田(今成)沈下橋で、橋を渡るときの気分はそう快です。他に、四万十市内だけでも、深木、高瀬、勝間、口屋内、岩間、長生、中半家、半家の沈下橋があり、いずれも四万十川らしい、川と人との関わりの感じられる風景が見られます。(HP「四万十市」より)

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【写真】口屋内沈下橋(全長:241.3m、幅員:5.6m)
 中村駅より車で40分。JR江川崎駅より車で30分。
 曲線を多様したデザインがユニークな沈下橋です。すぐ下流には支流の中で最も透明度が高いといわれている黒尊川が合流しています。   
 
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