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第35首 谷岡亜紀  (神奈川県)

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     回想の彼方輝く川ありて四人家族が橋渡りゆく


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■歌の背景

 私は高知市に生まれ育ちました。当時はまだ交通の便が今ほど整備されておらず、幡多中村は高知市内からずいぶん遠いイメージがありましたが、子供の頃に一度だけ、父母と弟と家族四人で四万十川を訪ね、沈下橋を渡った思い出があります。

 それから35年、記憶は薄れつつありますが、高知を離れて暮らす今も、四万十川は不思議に懐かしい故郷の川です。

【水彩画】徳広淳也氏(大阪府・中村高校第一期卒業生)

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[プロフィール]

第35首 谷岡亜紀  (神奈川県)_e0190619_6353485.jpg昭和34年 高知市生まれ。
19歳で上京し、1980年「心の花」に入会。
以後、佐佐木幸綱に師事。
現代歌人協会会員。
歌集『臨界』『アジア・バザール』ほか。
エッセー集に『歌の旅』(高知新聞企業刊)がある。
現在、神奈川県茅ヶ崎在住。

 作風:第38回現代歌人協会賞を受賞した第一歌集『臨界』は、都市が中心となっているが、テロリストや射殺魔、娼婦といった、都市の迷路にさまようアウトサイダーの視点から、いいしれぬ時代の飢渇感を表出している。

 それは、都市という文明の飽和状態のただ中において、ゆきくれてしまった魂のありかを問いかえそうとするものであり、現代に対峙しようとする鋭い批評意識と、作者本来の資質である無頼の精神が重層化され、スリリングな文体を織りなしている。(「現代短歌大事典」より)
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 『このたびは、「四万十川百人一首」に嬉しいお誘い、ありがとうございました。この歌は、四万十川をイメージして、かなり前に作ったものですが、歌集には現在まで未収録です。

 四万十川には、10年程前に、佐佐木幸綱先生はじめ「心の花」のグループをお連れしたことがあります。

 その折には、小谷貞広さんや、刈谷中村市長、また市役所の方に大変お世話になりました。四万十川での舟遊びや、トンボ公園、そして四万十料理の大宴会。どれもたいへん楽しい思い出です。どうか皆さんに、くれぐれもよろしくお伝えください。(谷岡)』

【写真】小野秀秋氏(春の今成橋/写真集「自賛他賛」より)

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[代表歌鑑賞]      (「現代短歌大事典」より)

  毒入りのコーラを都市の夜に置きしそのしなやかな指を思えり

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 テロリストのいいしれぬ精神の渇きと行為を「しなやかな指」として巧みに描いており、「暴力的やさしさ」を宥めつつ生きざるをえない歌人のありかを刻印している。(山下雅人)

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[ひとくちメモ]

■心の花

 1898(明治31)年2月、佐佐木信綱主宰のもとに創刊された歌壇最古の歴史と伝統のある短歌雑誌で、竹柏(ちくはく)会により刊行されています。誌名の由来は、創刊号の信綱の「歌はやがて人の心の花なり」によります。1998年に1196号として「創刊100年記念号」を発行し、現存する短歌の雑誌として、もっとも長い歴史を持っています。

 「心の花」は創刊以来100年にわたって「ひろく、深く、おのがじしに」を唱道して、清新かつ個性豊かな俊秀を多数歌壇に送り出し、近代・現代短歌史の中で重要な役割を果 たしてきました。

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[四万十川秀歌百選/大滝貞一]
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 土佐は酒どころ。剛毅な性情には酒が似合う。それかあらぬかめっぽう酒に強い人も多い。郷里の銘酒を温め飲みながら、四万十川の河口にしぶくささの冷雨を偲ぶとするか、こんな寒夜には。

  渡川海へ注げる境界を白く真昼の雨が過ぎゆく

 という歌もある。四万十川はもともと渡川(わたりがわ)と呼ばれていたし、現在でも河口近くにその名が残る地名もある。河川法上で正式に四万十川と認可されたのは、平成6年5月のことである。(大滝)

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【写真】武吉孝夫氏
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