第12首 大野 晃 (長野県)

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     四万十の川面に映るむら姿暮らし見つめて秋雲流る


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■四万十川の限界集落にて・・・

 この短歌は、四万十川中流域の十和村にある小野集落を初めて訪れた時に詠んだものである。

 あれからもう30年が過ぎている。

 夏の調査を終えた最後の夜は、きまって河原が酒宴の舞台になる。涼風に誘われ三三五五河原へ降りてくるむらの衆。自分の座る平らな石を探してきて銘々が焚火を囲むシワ深い顔々。

 アユ掛け名人のカン兄。政治談義が好きなシゲ兄とカー姉。ハーモニカが得意なタケ兄とヨシ子さん。アコーディオンの名手ヒデ兄とフミ子さん。むらに古くから伝わる念仏踊りの踊り手トク爺さん。いつも元気だ。遅れてカン兄の嫁さんが・・・。

 夏の夜空を焦がした焚火が、おきになると、その上に金網がのせられ、元気のいいテナガエビが塩をふられ網の上で踊り出す。踊り疲れて赤くなるのを待って男どもは一斉にエビを丸ごと口に入れ、茶碗酒を一気にあおる。

 時間をかけてじっくり焙った竹串のアユが口に入る頃には、次々に歌や踊りがとび出し、女衆の手拍子と合の手が続く。夜更けと、ともに歌声が漆黒の闇に消え去ると、河原はせせらぎだけの静寂の世界にかえり、むらは深い眠りに入る。

 流域のむら人の暮らしに深く溶け込み、むら人の暮らしをじっとみつめつづけている大河、これが日本最後の清流四万十川である。

【水彩画】徳広淳也氏(大阪府・中村高校第一期卒業生)

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[プロフィール]
a0051128_744147.jpg・高知大学名誉教授
・前北見工業大学教授
・現長野大学教授
・日本農業法学会理事
・北海道社会学会理事
・北海道北見高知県人会顧問
・[こうち自然村]村長

 専門は地域社会学、環境社会学、山村社会学で、長年にわたる、山村を中心とした高齢者の生活実態調査を通して明らかにした、「限界集落」は、現代山村を特質づけるものとして学会のみならず、テレビ新聞等で取り上げられ全国各地で大きな反響を呼んでいます。

 また、研究は現場主義に徹し、住民の生の声を聞き取り、論理を組み立てて問題を提起する手法で「人工林と雑木林を対比した山村二類型論」「流域共同管理論」などの論文を発表しています。

 現在、高知県の山村をはじめ全国各地の地域問題の調査研究を継続するかたわら、これまでの研究成果を生かし、山村再生への具体的政策提起を行うとともに、地域の新しい担い手の育成を目指し、住民の政策・企画立案能力を高めていくための地域づくりアドバイザーとしても活躍中。
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 『昨日、20日ぶりに、北海道から、長野に帰ってきました。登学しましたら、高知からの「四万十川百人一首」の、ご案内の手紙がきていました。

 遅くなりましたが、四万十川の短歌・コメントを同封しましたのでよろしく。10月、四万十市に講演に行きます。(大野/17.8.23)』
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[代表歌鑑賞]   

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 伸び伸びる床突き抜けて孟宗の人去りし廃屋(いえ)むら絶えし山村(やま)

■衰退するスギ山集落

 高知大学文学部(94年当時)大野晃さんの短歌に危機感がにじむ。

 大野教授の地下足袋に踏まれて、林床の落枝、落葉がポキポキ、パリパリと乾いた音をたてた。山並重量たる四国山地の谷あいに、平家の落人集落がひそむ高知県長岡郡大豊町奥大田。南国土佐のまばゆい夏の陽もスギ林にはほとんどさしこまない。陰気で暗く、生き物の気配すらない。

 隣り合うクヌギ、カシの広葉樹の森に踏み込む。足元は分厚い腐葉土に音もなく包まれ地下足袋の指先にたちまち水がにじんでくる。スギの植林地の向こうには息詰まる光景があった。放棄された畑が連なり、廃屋群がスギ木立にのみこまれつつある。

 戦時中に伐採された山林を緑化しようと、林野庁は膨大な補助金をあて、生長が早く加工しやすい、高値のつくスギ、ヒノキを全国で一斉に植林するよう指導してきた。

 とくに高度経済成長策がとられた1960~70年代には、広葉樹の天然林を大面積で切り払い、スギ、ヒノキを植える「拡大一斉造林」が行われた。

 いま日本の森林約2,500万ヘクタールのうち約1,000万ヘクタールがスギ、ヒノキの植林地だ。世界でもまれな画一的で、地方収穫型の森林モノカルチャー(単一種の栽培)である。

 65年に木材輸入が自由化されてからは、安価な外国産材に市場を奪われ、日本の林業と山村は再起の見通しすら立てられない。

 60年に1万8,000人だった大豊町の人口は、90年に7,700人に半減した。65歳以上の高齢者の比率は、9.7%から33%へ。2,005年には52.8%と人類史上前例のない超高齢化社会になる。

 すでに高齢者が平均して23%に達している日本の山村にとり、大豊町のたたずまいは他人事ではない。防犯防災の協力も、道普請、水路維持の共同作業も祭りもできなくなり、集落は消えていく。都会の過密の裏側の光景である。(原剛氏:早稲田大学教授「農から環境を考える」(集英社新書)より」)

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[文化遺産]

■限界集落
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・椿山 焼畑と伝説の里/高知県池川町(現仁淀川町)
 椿山の語源は定かではないが、安徳天皇を奉じる平家の一族が過酷な四国山地での生活の中で、遠い故郷への望郷の念と、春を告げる椿の花への思いだったかもしれない。(井上強)

【写真】井上強氏(写真集「自賛他賛」より)
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